月影
結局答えなんて出ないまま、気付けば5月も末になっていた。


そしてやっと迎えた店休である日曜日に、注ぐ日差しの中で電車を降りてみれば、こんなところまで潮の香りが漂っている気がする。



「姉ちゃん、久しぶり!」


「お迎え御苦労。」


笑うと、シュウも同じように笑う。


一度電話で話したけれど、それだけじゃダメだと思い、あたしは再びジルと共に来たシュウの暮らす町にひとり足を運んだのだ。


彼には心配されたが、別にあたしは辛いとは思わなかったし、何よりジル自身、一緒にここに来るほどの時間は取れないくらいに忙しくなっているのを知っているから。


だからこそ、あたしはひとりで来たのだ。



「…迷惑、掛けてごめん。」


「良いよ、気にしてないから。」


「…我が儘も、ごめん。」


「良いよ、それも気にしてない。」


姉弟でちゃんと顔を合わせて会話をするのは、本当に2年ぶりだ。


駅から降り立ち、バス停のベンチにふたり、腰を降ろした。


次のバスまで一時間ほどあると言うが、静かだし、結局挨拶もそこそこに、どちらからともなくその話題に触れる。



「キャバクラ嬢なんだね。
テレビでしか観たことなかったけど、目の前の姉ちゃんがそんなのになってるとは思わなかった。」


「…どんなイメージ?」


「綺麗な人が多くて、お酒飲んでるイメージ、かな。」


「まぁ、そんな感じで正解だよ。」


見た目は結構変わっただろうなとは、自分でも思う。


だからなのか、シュウも少し委縮して話しているような気がして、笑ってしまった。


何でなのかと問われたけれど、「家を出たかったから。」とだけ言っておいた。


本当のことを言えばシュウは自分の所為だと思い込むだろうし、何より、彼を探すことも、キャバをすることも、結局は自分が決めたことだから。


別に、探すためとは言え、この仕事じゃなくても良かったのだし、だからこそ、本当のことは言わなかった。

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