月影
「姉ちゃん、何か別人みたいだよね。」


「シュウに言われたくないよ。」


あたしも変わったとは思うけど、それにしても隣の弟も、別人のように変わっている。


肌の色は健康的な感じになってるし、背も伸びてるし、改めてちゃんと見ても、やっぱり病人には見えない感じだ。


きっとこの何もない海辺の町が、彼に今まで生きる希望を与えていたのだろう。



「ここに居ることを選んだんだね。」


言うと、彼は申し訳なさそうに視線を落とした。



「おじさんやおばさんとちゃんと話して、最後は納得してもらえた。
俺は親の元には戻りたくないし、最期までこの景色を見ていたいから、って。」


「…病院は?」


そう問うと、彼は首を横に振った。



「保険証は使えないでしょ?
それに、余命宣告とかされたくないから。」


正直、ちゃんとした治療を受けて、少しでも長く生きてほしいとは思う。


でも、シュウはそれを望んではいないし、命が尽きるまで、この場所に居ることを自分で決めたのだから。


覚悟したような瞳に、いたたまれなくなった。



「…親には、言った?」


「言ってないよ。
それに、言ってたら今頃、アンタ連れ戻されてるでしょ?」


そんな言葉に彼は苦笑いを浮かべ、複雑そうな顔が見て取れる。


背負うものがありすぎるこの子が、本当は優しい子だってこと、あたしは知っているのだ。



「…俺、親不幸、だよね?」


「まぁ、親孝行ではないね。
でも、それもわかってて、覚悟を決めて家を出たんでしょ?」


静かに、そして深く彼は、頷いた。


文字通り、命を賭して家出をしたのなら、あたしに告げ口をする権利はない。

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