月影
「それよりさ!
あの時、姉ちゃんと一緒に居た人って、彼氏さん?」


急にパァッと明るい顔をして、シュウは瞳を輝かせた。


ジルのことを言っているのだとは思うが、それにしてもあたしは、少しばかりため息を混じらせてしまう。



「違うよ。」


「えっ、違うの?」


「そんなんじゃないんだって。」


「じゃあ、姉ちゃんの片思い?」


何でそうなるんだよ、と思った。


思わずあたしは睨むような目になってしまい、もう一度、違うの、と言う。



「それよりシュウは?
好きな子とか彼女とか居ないの?」


不貞腐れるように問うた瞬間、彼のバツの悪そうな顔にハッとした。


シュウの前で、こんな不用意な発言をしてしまったのだから。



「…居るんだけど、ね。」


そんな苦笑いに、ごめん、と言うタイミングを失ってしまう。



「漁師の娘でね、お父さんが怖い感じなの。
でも、その子は好きな人が居るみたいだしさ。」


「…そう、なんだ…」


「まぁ、今は俺も修行中の身だし?」


ははっ、と彼は笑ってくれた。


本当に、普通の生活を選び、そして普通に生きる少年の笑みだ。


死を受け入れると、人はこうも強くなれるのだろうか。


半ば惰性で生きているような自分が、急に恥ずかしくなった。

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