月影
他愛もない話で盛り上がっていると、バスはあの小料理屋の前に到着した。


おじさんとおばさんが出迎えてくれ、今日はお店を閉めてシュウがあたしに御馳走してくれるのだとか。


それを聞き、笑ってしまった。


シュウの新しい家族は、とてもとてもあたたかい人たちだった。


そして何より、シュウの作ってくれた料理は、驚くほどに美味しかった。


それでも、長く生きて欲しかったからこそあたしは、「まだまだだね。」なんて言ってやったのだ。


おじさんとおばさんは、子宝に恵まれなかったと言い、シュウを本当の息子のように可愛がっていた。


そして、このままで居たいのだと、あたしに決意した顔で言ってくれた。


葛藤もあっただろうし、決して簡単ではない想いだったろう。


だからこそ、あたしは「よろしくお願いします。」ともう一度、頭を下げたのだ。


彼らは両親のことを気にしてたけれど、あたしが丸め込んだから大丈夫だと言っておいた。


それだけがきっと、あたしに出来ることだと思ったから。


最後にまた来る約束をし、あたしは海辺の町を後にしたのだ。

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