月影
ジルとはもう当分会っていなかったけれど、たまに電話は掛かって来ていた。


その度に心配されるようなことを言われるけれど、あたしにしてみれば、彼の方が気になってしまう。



「おめでとう、葵。」


「ありがとう。」


そして、葵はナンバーワンになった。


ずっとこのお店の頂点に君臨していた蘭サンを抜き、彼女は本当にナンバーワンを勝ち取ったのだ。


歴史が変わった瞬間を見たようで、呆然とした蘭サンの顔が脳裏をよぎるけれど、やっぱりあたしは友達の栄光を祝った。



「今日、あたし奢るよ！」


「ごめん、レナ。
アフター入ってるから。」


「…そう、だよね。」


少し興奮して言ったあたしに反し、彼女は小さく笑うだけだった。


ジルと同じように、疲れたような顔。


喜びよりも、重責を受け止めるような面持ちに、あたしはそれ以上は何も言えなくなる。


最近の葵は、自分のことを何も話さなくなった。


嬉しい時も、悲しい時も、聞かなくても漏らすように言ってくれていたことを思えば、少し寂しくもなってしまうのだが。


そしてナンバーワンになったことで、急に遠い存在のようにも思えてくるのだ。


去っていく彼女の後ろ姿を見つめていれば、サキちゃんが声を掛けてきた。



「葵さん、最近別人みたいですよね。」


それはあたしも思っていた。


聖夜クンと別れ、ナンバーワンになるんだと言っていた頃よりも、どこか弧高になった気がする。


それは多分、彼女を支える小柴会長と、最近ではほとんど同伴してくるようになったからかもしれないけれど。


とにかく少しだけ、心配になった。

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