月影
今までうちのお店は、それなりにみんな仲が良く、平和だったとは思う。
それもこれも、蘭サンが不動のナンバーワンだったから。
誰も彼女を抜けなかったし、ナンバーワンになりたいと口で言ったとしても、どこか現実的に思えなかったのだ。
蘭サンだって他の人を追い抜いてナンバーワンになったのだから、当然と言えば当然なはずなのに。
なのに葵がナンバーワンになったことで、このお店の調和が少しずつ、保てなくなってきている気がした。
現に葵と仲が良いあたしは、蘭サンのオトモダチにまで睨まれている。
サキちゃんも最近では実力をつけ、確実に順位を上げているからこそ、変化が少し怖かった。
何より、本気であたしもナンバーワンを目指すなら、最終的に葵を抜くことを考えなければならないのだし。
「聖夜、クロス辞めたよ。」
拓真が真面目な顔でそう言った。
目を見開いたあたしに彼は、マジで、と付け加える。
「…何で?」
「俺も理由までは知らないけど。
でもさ、俺らの周りって大学卒業して新卒で働き出した年だし、アイツなりに考えて決めたことじゃない?」
向かい合う彼は食事に端を落としながら、仕方がないよ、とだけ言う。
別々の道を歩むことを決めたふたりは、くしくも同じ時期に、人生を変えたということか。
まるで選択を急かされているようで、焦る気持ちが心を支配する。
「俺は、勝つまで辞めない。」
真っ直ぐに、そう拓真は、あたしの瞳を捕らえた。
「…それ、あたしに営業掛けてる?」
「違うよ。
でも、決意宣言、かな。」
真剣な顔から一変したように犬顔で笑い、また彼は焼き肉をつついた。
流れの中に取り残されたような、そんな感覚に陥り、あたしは何も言えなくなってしまう。
拓真とのこんなひとときだって、もしかしたらそのうち、無くなってしまうのかもしれないし。
それもこれも、蘭サンが不動のナンバーワンだったから。
誰も彼女を抜けなかったし、ナンバーワンになりたいと口で言ったとしても、どこか現実的に思えなかったのだ。
蘭サンだって他の人を追い抜いてナンバーワンになったのだから、当然と言えば当然なはずなのに。
なのに葵がナンバーワンになったことで、このお店の調和が少しずつ、保てなくなってきている気がした。
現に葵と仲が良いあたしは、蘭サンのオトモダチにまで睨まれている。
サキちゃんも最近では実力をつけ、確実に順位を上げているからこそ、変化が少し怖かった。
何より、本気であたしもナンバーワンを目指すなら、最終的に葵を抜くことを考えなければならないのだし。
「聖夜、クロス辞めたよ。」
拓真が真面目な顔でそう言った。
目を見開いたあたしに彼は、マジで、と付け加える。
「…何で?」
「俺も理由までは知らないけど。
でもさ、俺らの周りって大学卒業して新卒で働き出した年だし、アイツなりに考えて決めたことじゃない?」
向かい合う彼は食事に端を落としながら、仕方がないよ、とだけ言う。
別々の道を歩むことを決めたふたりは、くしくも同じ時期に、人生を変えたということか。
まるで選択を急かされているようで、焦る気持ちが心を支配する。
「俺は、勝つまで辞めない。」
真っ直ぐに、そう拓真は、あたしの瞳を捕らえた。
「…それ、あたしに営業掛けてる?」
「違うよ。
でも、決意宣言、かな。」
真剣な顔から一変したように犬顔で笑い、また彼は焼き肉をつついた。
流れの中に取り残されたような、そんな感覚に陥り、あたしは何も言えなくなってしまう。
拓真とのこんなひとときだって、もしかしたらそのうち、無くなってしまうのかもしれないし。