月影
いつもと違うことと言えば、帰ろうとするあたしを、ジルが送るよ、と言い出したことだ。


そして帰り道、煙草を買うのだと言った彼はコンビニに寄り、車を降りたので、あたしも一緒になって降りた。


そんな時だった。



「…ギン…」


そこには、こちらを睨むように煙草を咥えたギンちゃんの姿。


思わずあたしはごくりと生唾を飲み込むと、ジルはうんざりした顔でため息を混じらせた。



「車あったからビビったわ。
お前、どこに消えたかと思ったら、レナちゃんと一緒やってんな。」


「言い訳はしねぇよ。
でも、コイツは俺が引っ張り回してただけだ。」


嘘つけ、とギンちゃんは、舌打ちを混じらせる。


引っ張り回してたのはあたしの方だというのに、ジルはそんなあたしを庇ってくれたのだから。



「まぁ、そんなんどっちでもえぇねん。
お前、今がどんな状況かわかってんのか?」


「…わかってるよ。」


「わかってへんやろ!
それにお前、こんなん嶋さんにバレたらどないすんねん!」


煙草を投げ捨てたギンちゃんは、ジルの胸ぐらを掴みにかかった。


白昼のコンビニの前で、大の男ふたりの一触即発の光景に、あたしは指の先さえ動かすことが出来なかった。



「だったとしても、お前に迷惑は掛けねぇから。」


「そんなん言うてへんやろ!
お前、自分が今、どんだけヤバいかわかってへんのか?!」


「わかってるよ。
つか、わかってるから黙れ。」


決して言葉は芯の部分に触れようとはしないが、声を荒げるギンちゃんに対し、ジルはひどく冷静だ。


まるで捕まる覚悟でもしているような、冷たい瞳。


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