月影
「葵は?」


問うと、店長は時計を一瞥し、同伴だ、とだけ言った。


今日もまた、彼女は小柴会長とご出勤のようだ。



「…心配だね。」


呟くあたしに店長は、言葉を返すことはなかった。


あれほど葵を気に入っていたと思っていた店長も、いざ彼女がナンバーワンになると、こんなにも興味を示さなくなるのだろうか。


葵の立場を考えると、やはりそんなことにも心配になってしまうんだけど。



「ねぇ、本当に大丈夫なのかなぁ?」


「そんなこと言ったって、小柴会長が切れたらどうなる?
葵だって今のポジション守るために必死なんだ。」


あたしから視線を外し、店長はそう、煙草を咥えてしまう。


ナンバーワンに、転落なんて文字はないし、奇跡的ではなかったのだと証明するためにも、葵が必死なのだということも、頭では理解できる。


プライドの高い蘭サンのことだ、今月も葵が一位なら、彼女は店を辞めるだろう。


蘭サンが返り咲いたとすれば葵が店を辞めることになるだろうし、どのみちアイズは、このままじゃいられない。


でも、あたしはもう、何もかもがわからなくなっているのだ。


ジルのことも、葵のことも。


大事とか、大事じゃないとか、仕事に執着することの意味とか、優先させるべきものとか。


あたしは、あたし達は、これからどうなるというのだろう。


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