月影

壊れゆく音

蘭サンと、そして彼女の取り巻きという名のオトモダチは、日増しに苛立ちを増しているようだった。


何故ならそれは、葵と蘭サンの差が、決定的だから。


小柴会長が居る限り、葵のグラフは抜きん出ていて、もはや誰も追い付くことは叶わないとさえ思えるのだ。


そのおかげなのか、あたしやサキちゃんは、とばっちりを受ける格好になっている。


別に嫌がらせをされたとかいうわけでもないが、例えばみんなで談笑していると、うるさいんだけど、と睨まれたり、調子に乗るな、と言われたり。


彩は新人なので眼中にないのかもしれないが、あたし達は葵と特に仲が良い上に上位に位置している。


正直、調子に乗ってるのは向こうだとは思うのだが、トラブルが嫌いなあたしは何も言わない。


まぁ、サキちゃんの腹の底は煮えたぎっているようだが、彼女もまた、何も言わずに耐えていた。



『アイズも穏やかじゃないねぇ。』


電話口から聞こえた拓真のそんな声に、あたしは笑うことさえ出来なかった。


「拓真はどんな感じ?」と返すと、彼もまた、ため息を混じらせる。



『トオルさんまでの道のりは遠いよ。
正直、俺も太客もっと欲しいとは思うね。』


そして、頑張らなきゃ、と付け加えられた。


唯一仕事の話が出来るのは拓真なのだが、彼は相変わらず上を目指しているらしく、辞めることさえ考えているあたしとは、大違いのまま。


だからこそ、最近では拓真とは、電話ばかり。



「そのためなら、何でもするの?」


『するよ。』


力強い一言だった。


不意に葵と小柴会長の腕を組んで出勤してくる様子を思い出し、思わず振り払うように首を振った。

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