月影
「ジルさ、ホントに大丈夫なの?」


手に持つ彼の缶ビールを取り上げると、一瞬驚いたような顔をされた。


が、心配しなくて良いよ、とまた、それは取り返されてしまう。



「でも、怖い顔してるじゃん。」


最近は会うことなんて本当に稀で、週に一度電話し合えば良い方だったことだし、多分ジルは、今日だってあたしとの時間を無理やりに作ったはずだ。


何より彼は、あたし以上に精神的にも追い詰められているのだと、すぐにわかる。



「お前こそ、今日ヤバい顔で仕事してたじゃん。
あんま俺の心配の種を増やすなよ。」


「そりゃあたしの台詞だよ。」


どうやら本当に、あたし達は自分自身のためには生きられないらしい。


支えたのか、支えられたのか、抱き締めキスを落とされ、ビールの苦みが支配する。



「マジ、俺は大丈夫だから。
今さえ乗り切れりゃ、何とかなるよ。」


随分とまぁ、アバウトな。


何より、乗り切ったところでジルの仕事はヤバいままなのだろうし、嶋さんと呼ばれる人に飼われてるらしい現実は、何ら変わりはないのだろうから。



「あたしもさ、今さえ乗り切れれば、って感じかな。」


シュウのことも、葵と蘭サンのトップ争いも、それ以前に仕事を続けるかどうか、ってことも含め、だ。


でも、頑張るのは少しだけ、疲れてしまったよ。

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