月影
「あたしら全員辞めるから!
アンタらなんかみんな、薄汚いのよ!」


水商売に綺麗さを求めるなんて間違ってると、あたしは思ってる。


でも、少なくとも蘭サンは、そんな中でもプライドを持ってやってきたのだろう。


やっぱり捨て台詞を吐き、彼女と取り巻きの3人は、怒りを込めてヒールを鳴らし、更衣室を後にした。


ただ呆然とする中で、誰のともわからないため息が重く落ちる。


あたし達は、謹慎処分だろうか。



「お前ら、もう帰れ。
店長には、蘭たちが辞めたことだけ伝えておくから。」


マネージャーもまた、疲弊した顔だった。


つまりは今日の騒動の責任は、全部蘭サンたちに押し付ける、ってことだろう。


まぁ、今のアイズは、葵と小柴会長の関係で成り立ってる部分もあるし。


言葉だけを残し、あまり関わりたくはないのだろう彼は、逃げるように部屋を後にした。


あたしとサキちゃんは言葉さえも持てず、どちらからともなく葵へと視線を向ける。



「何よ。
だったら何?」


苦虫を噛み潰したように、葵は苛立ちをあらわにした。


否定も肯定もせず、ただこちらを睨んでいるのだ。



「アンタだってジルって客とヤることヤッてんじゃん。
他の客にも色掛けて、おまけにホスト嫌いとか言って、どうせ拓真っちや岡ちゃんとだってヤッてんでしょ?!」


「は?」


さすがにあたしも、顔を歪めた。


ジルと寝てることも、お客に色を掛けてることも、否定は出来ないし、汚いなんて自分が一番分かってる。


でも、岡ちゃんや拓真とのことまでそんな風に見られていだなんて。


あれほど仲良くしていて、唯一心を許せる友達と思っていた葵に、まさかそんな風に言われるなんて思わなかった。

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