月影
「女を売るのが仕事でしょ?!
持てる武器全部使って何が悪いってのよ!」


ふと、聖夜クンとの別れを思った。


あの頃から葵は、変わったのだから。


だとするならば、全てのつじつまが合うのだ。


店長は元々葵と仲が良かったわけだし、利用したのか、それとも単にほだされただけなのか、弱ってる彼女とヤッたとするなら。


言葉巧みに葵にトップの座を狙わせることだって簡単だろうし、思えば小柴会長が初めて来店したときにも、蘭サンではなく彼女がテーブルにつけられていた。


そこからは、想像に易い。



「…アンタ、まさか…」


「レナに否定なんかされたくないよ!
ナンバーワンなんて、取ったモン勝ちなんだから!」


悲しくなった。


そうまでしてナンバーワンになって、一体何になると言うのか。


葵は切り捨ててるとでも言いたいのだろうが、あたしから見ればそれは、失っているのと何ら変わりはない。



「やめようよ、葵。
あの会長はあんま良い噂聞かないし、葵のためにもこんなこと続けてても意味ないよ。」


「けど、もう後戻りは出来ないんだよ!」


悲痛な叫びが、胸に刺さる。


みんなみんな、後戻りは出来ないのだという強迫観念にさいなまれながら、神経をすり減らし、それでも懸命に生きている。


あの頃、何があっても葵の傍に居て、ちゃんと話を聞くべきだったのかもしれない。


言いたくなったら聞くよ、なんて言葉は使わず、お節介でも出来ることはあったはずなのだから。



「最悪ですね、葵さん。」


あたしがごめん、と言うより先に、横でそれまで何も言わなかったサキちゃんが、憎々しげにそう吐き捨てた。


だけどもまるで、それはあたしにも言われているようで、結局言葉は出ないまま。


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