月影
「ありがと、ジル。」


「ん、良い子にしてたらまた来てやるよ。」


そう、彼の吐き出した煙草の煙が真っ黒い色した闇空に溶け、思わずあたしはクスリと笑ってしまった。


まぁ、気紛れなジルが来てくれたってことだけでも、喜ばなきゃいけないのかもしれない。


ジルは多分、自分に従順な人間には優しいのだろうとは、何となくだけど思うこと。


だからあたしは、反応するように最初のあの時以外、彼に逆らったりしてはいないのだ。


下まで送ると、「車持ってきてやるわ。」と言ったギンちゃんは先に居なくなり、あたしは寒さの中で身を縮めた。



「気をつけてね。」


「あぁ、また連絡する。」


すぐにギンちゃん運転のアメ車が彼の横に止まり、じゃあな、の言葉ひとつでジルはそれへと乗り込んだ。


ジルと関わっても、きっと良いことにはならないってわかってる。


恋と呼ぶほどトキメクような感情ではないけれど、でも、他に何人女が居たとしても、気付けばあたしはいつも、あの人を求めているのだから。


本当に、始末の悪いものが燻ったまま。


“飼う”というのがどういうことかはわからないけれど、もしかしたらセックスをする代わりにお店でお金を落としてくれる、ということなのかもしれない。


商品であるあたしなんて、きっとそんなものなのだろうし。


大して悲観しているわけでもなく、素直にそう思うのだ。


寒さの中でまた生きていることを少し実感して、闇空を見上げながら、ネオンに隠れた星を探した。


頼りない月の光さえ届かない、人工的な明かりに染められた街。


ジルの本当も、あたしの本当も、そんなものに覆い隠されている気がした。

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