月影
「レナさん!
さっきのお客、超格好良かったですね!」


「…そう、だね。」


まぁ、顔はね、と心の中で思いながら、あたしは苦笑いを浮かべてしまう。


ジルを送って戻ってみれば、先ほどヘルプについていた彼女は鼻息荒くそんなことを言っていて、何だかなぁ、とあたしは、肩をすくめた。



「それに何より、お金持ってそうだし。
もしかして、彼氏とかなんじゃないですかぁ?」


「…まさか、やめてよ。」


「え~、隠さなくても良いのに!」


「隠してないし、ホントただの友達だから。」


私生活でこんなにうるさく聞かれたら、絶対あたしは殴ってるだろうな、と思った。


別にジルと付き合いたいとは一切思わないし、向こうもその気なんてないだろうし。


何より嘘でもそんなことが知れたら、また面倒なことになるじゃない。



「良いなぁ。
あたしもあんな人の指名欲しいです。」


「良いじゃん。
サキちゃんには太客の専務がついてるんだし。」


「そうですけどね。
あんなオヤジに好かれてもねぇ、って感じ。」


「仕事だよ、仕事。」


そうですけどぉ、と未だ口を尖らせる彼女を適当にあしらい、あたしは別のお客の元へと向かった。


確かに、若くて格好良くて、そんでもって綺麗に遊ぶお金持ってるお客なんて、そりゃ誰だってこんなこと言いたくなる気持ちも分かるが、所詮は仕事でしかない。


うちの店でもお客と付き合ってるナンバークラスだって居るからあんまり言えないけど、あたしにとってはセフレ程度の関係が楽で良いのだ。


だって彼氏の所為でこの仕事を辞めるなんて、そんなの馬鹿げてるとしか思えないんだもん。

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