月影
ジルが抱き締めてくれた。


もう、強がらなくて良いから、なんて言ってくれる。



「姉ちゃんとして、お前は十分頑張ったよ。」


ジルの香りがして、その時初めてあたしは、声を上げて泣いたのかもしれない。


正直、後悔ばかりだったのだ。


やっと見つけ出せたのだから、キャバなんか辞めて、あの子の傍に居てあげれば良かった。


もっと色んな事を話して、2年の隙間を埋めれば良かった。



「なぁ、レナ。」


ジルはあたしの背中をさすりながら、静かに言葉を紡いだ。



「お前は何も悪くねぇよ。
弟から確かに愛されてたんだから、それって泣くことじゃねぇと思うんだ。」


少し頼りない声色だった。


ジルはもしかしたら花穂サンのことを思い出しながら言ってるのかもしれないけれど、きっと彼自身、乗り越えようと必死なのかもしれない。



「忘れちゃダメだけど、ちゃんと思い出として心ん中に残してやれ。
そんで、弟のためにも生きろ。」


もしかしたら、あたしが死ぬとでも思ったのだろうか。


涙ながらにこくりとだけ頷けば、彼は少し安堵したかのような顔であたしの頭を撫でてくれた。


ジルが居てくれたから、あたしは辛うじて自分を保てたのかもしれない。


だからありがとう、と言うと、彼は小さく口元を緩めてくれた。


あたしから体を離したジルは、キーケースを開き、鍵を外す。



「これ、渡しとくわ。
俺んち、勝手に来てくれて良いから。」


視線を落とせばそれは、ジルの部屋の鍵だろう。


家にもロクに帰らない男にこんなの貰っても、と思ったけど、少し気まずそうな顔に笑ってしまった。


大事な人に貰った大事なものがまた増えたことが、嬉しかったんだと思う。

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