月影
「大丈夫なのか?」


岡ちゃんを送り出してすぐのこと、きっと顔色が悪かったのだろうあたしを、店長が呼び止めた。


大丈夫だよ、とだけ素っ気なく返すと、彼はため息を混じらせて肩をすくめる。



「レナは放っとくとすぐ飲みすぎるからなぁ。」


「飲むのも仕事の内って教えてくれたの、店長じゃなかったっけ?」


「加減しろっつってんだよ。
心配してやってんだから、素直に聞け。」


ぶっきら棒でもいつも通りの店長を前に、本当に葵とそんな関係なのだろうかと、逆に疑ってしまうほど。


幸いなことに店の子たちはみな、このことは知らないし、店長も葵から何も聞いていないのだろうか、変わりはない。


だからこそ、腹の底で何を考えているのかがわからず、あたしがこの人に心を許すことはなくなったのだけれど。



「あたしより、葵の心配してあげれば?」


「俺はお前や葵だけじゃなく、みんなの心配してんだよ。」


これでも一応店長だからな、と付け加える顔に焦りは微塵もない。


上手く交わされたな、と思うが、こんな仕事してればそれもまぁ、普通なのかもな、とあたしは、諦めるように宙を仰いだ。



「それよりお前、彩のことちゃんと見張っとけよ。」


「……は?」


見張る、なんて単語に思わず眉を寄せたが、彼はそれだけ言ってすぐにあたしに背を向けた。


一体、何を言っているのだろう。


確か、前にもジルが、彩のことをいぶかしそうに言っていたことがあるけど、今度は店長までもだ。


何かただならぬものを感じた気がして、無意識のうちにあたしは、身震いを覚えた。

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