月影
「花穂が死んだことも、ギンを巻き込んだことも。
絶対に忘れちゃダメだからさ、刻んだんだ。」


真っ黒のトライバルを、体に。


言葉を紡ぎ終え、彼は短くなった煙草を消した。



「あの日から、俺らは自分の名前も過去も、何もかもを捨てたんだ。
だから俺は、ギンに償わなきゃならねぇし、アイツにこれ以上、何もさせたくねぇんだよ。」


漏らすようにそう言いながら、ジルは窓の外へと視線を移した。


涙のような雨は、しとしとと降り続き、世界は悲しみに濡れているようにも見える。



「俺、ギンの幸せも未来も全部、奪っちまったからさ。」


ジルは、あたしの想像を遥かに超えるようなものを背負っていた。


花穂サンの死も、親友の人生を壊したことも、全てを自らの所為にして、自分を責め続けているのだ。



「とりあえず、ギンの分の一千万、嶋さんの前に突き付けてやるよ。」

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