月影
彼がいくら稼いでるのかも、いくら貯金があるのかも知らないが、それでもそんな大金なんて、持っているはずもないだろう。


でも、ジルはきっと、例え人を殺してでもそのお金を作るつもりなのだと思う。


この人は、そういう男だ。


自分を犠牲にしてでも誰かを助けたがり、そんなことでしか生きられず、また、その中でのみ自分の存在価値を見い出せない人。



「…あたしがソープでも行けば、どうにかなる?」


少し震えた声色でやっと口を開いたあたしに、彼は驚くように目を見開いた。


別に、あたし自身、狂っているわけではない。


ただもう、あたしも生きる意味が見つからないだけ。


だけども彼は、窓の外に投げていた視線をゆっくりとこちらに戻し、あたしに向けて眉を寄せた。



「これは、俺の問題だ。
お前が関わることじゃねぇんだよ。」


突き放すような、低い声色。


それがあたしを巻き込ませないようにと言った言葉だということはすぐにわかり、悔しさの中で唇を噛み締めた。



「…俺、お前だけは何やっても守りてぇんだよ…」


胸を締め付けるほど、苦しさと愛しさが増した。


それでもジルは自分ひとりで抱え込みたがり、そしてひとりで耐えるのだ。


悲しげなジルの顔に、あたしは涙を零した。

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