月影
「金、稼がなきゃ。」


ジルはもしかしたら、今よりもっとヤバい仕事をし、死ぬかもしれない修羅場を乗り越えるのかもしれない。


でも、あたしは止めることさえ出来なかった。


全てを聞いてしまっては、どうすることも出来ないのだ。



「もしギンに会っても、今日のことは絶対言うなよ?」


「…そんなっ…」


「アイツにバレたら俺、またキレられんじゃん。」


言葉に詰まった。


ジルの生きている理由が、悲しすぎたから。


誰かを大切に思うこと、そのためにやりたくもない仕事をし、欲しくもないお金を稼ぐのだ。


楽になるべく死ぬことすらも許されない、この現実。



「…レナ…」


吐き出すようにジルはあたしの名前を紡ぎ、そしてそんな彼によって抱きすくめられた。


その体は冷たく、震えているようにも感じられたのだ。


弱さを決して見せない彼の、それが精一杯なのだろう。


傍に居てくれとも、見限らないでくれとも言わない。


言えないことは、もうわかっていた。

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