月影
「ジルはジルだよ。」


そう言って背中をさすると、彼はため息のように吐息を吐き出した。


例えジルがどんな男だろうと、もう自分の体の一部のように、失うことすら出来ないのだ。


関わらない方が良いなんて、今に気付いたことじゃない。


それでも、ジルと一緒に地獄に落ちることしか選べなかった。



「…んな悲しそうな顔、してんじゃねぇよ…」


悲しそうな顔をしているのは、ジルだって一緒じゃないか。


大事な幼馴染を失って、親友の人生を台無しにして、自分だって失うばかりで苦しんでるくせに、その罪をひとりで背負おうとする。


だからこれ以上、苦しんで欲しくなかった。


あたしが居ることで一時でもそれが紛れるのなら、十分だったのだ。



「お前のこと、嶋さんにだけはバレないようにしてたのに。」


きつく唇を噛み締め、彼は言った。


あたしだって怖くないわけではなくて、無意識のうちに身を固くしてしまう。



「…親代わりって、言ってたね。」


視線を上げるあたしに彼は、しょうがねぇんだよ、と言った。



「あの日、過去も名前も捨てた俺らは、良くも悪くもあの人が居なきゃ今日までの日々はなかったんだ。」


つまりはそれは、育ての親ということだろう。


この人は、一体どれほどの辛さの中で生きてきたのかと想像すると、やっぱり悲しくなるばかりだ。

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