月影
「うちの親は頭おかしいし、ギンも親居ないからさ。
父親とか、そういうのもあんまわかんねぇんだけどな。」


漏らすような、諦めの混じる台詞。


そして彼は、ふうっ、と息を吐き、こちらへと視線を向ける。



「ギン、抱けない女を愛してんだよ。」


「…どういうこと?」


「妹だ。」


なのにジルは、そこまで言って言葉を飲み込んだ。



「もう帰れよ、レナ。
俺もそろそろ仕事行かなきゃだし。」


妙に振っ切った顔をし、彼は少しばかり口元を上げた。


また、ひとりで抱え込むことを決めたのだろう顔に見え、それでもあたしは頷くことしか出来なかったのだ。


会えない日々が続くのだろうことよりも、やっぱりジルの心と体が心配になった。

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