月影
本当に久々にクロスに足を運んだ時、少し前に店を辞めたサキちゃんに遭遇した。


で、彼女とトオルさんは、あたしと拓真の席へとやってきたわけだが。



「レナさんがアイズに残る理由って何ですか？」


「何だろうね。」


そう、曖昧に濁しながら、「新しい店はどう？」とサキちゃんに聞いた。


彼女はトオルさんに促されるようにいつもの如く高いボトルを注文し、微妙ですね、と一言だけ。



「まぁ、まだ新人ですから。」


「じゃあ、俺も店替えしようかな。」


そう、冗談とも本気ともつかないような顔で、横から拓真が口を挟んで笑う。


ちなみにトオルさんは、聞こえないフリして別のテーブルに行くために立ち上がった。


どうやらあの男、面倒な話には無関心のようで、そういう態度があたしは大嫌いなんだけど。



「しちゃえー！
で、あたしと拓真くんは新人同士！」


サキちゃんはケラケラ笑い、グラスを勢いよく傾けた。


が、すぐにトオルさんが戻ってきて、楽しそうだなぁ、なんて困った顔をするのだ。


サキちゃんは基本、顔の良いメンツに囲まれて楽しくお酒を飲むためならお金を惜しまないらしく、あたしは愛想笑いしか返せないわけだけど。

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