月影
いつもの迎えに来るから、ではなくて、それがまた、あたしの不安を余計に駆り立てる。


でも、何か言うより先に、彼はギンちゃんの車の助手席へと乗り込み、あたしを残して走り去ったのだ。


他のお客も居たから、彩には何も聞けなかった。


だけども聞くよりもっと、現実は恐ろしいものだったのかもしれない。


見てしまったのだ。


帰り際、彩がギンちゃんの車に乗っていくところを。


しかも、助手席ではなく後部座席に。


これの意味するところはつまり、助手席にはもう、誰かが乗っていたのだろうということ。


フルスモークで車内は見えなかったが、それがジルである可能性が一番高いことが、何より悲しかった。

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