月影
部屋の扉を開けてすぐ、押し倒されて唇を奪われた。


いつもに増して性急で、異常なまでに激しく、犯すように抱かれたのだ。



「…痛いって…」


みなまで言うより先に、口を塞がれた。


これがジルじゃなかったら、軽く犯罪だろうと思う。


疑惑なんてのは結局のところ、自分の中にしかなく、だからこそ、大きく膨れ上がりもする。


愛しくて、とてもとても痛みのある行為に、涙しか流れなかったのだ。


だって彼は、吐き出すように苦しげな顔をしていたから。


あれから一体、何日が経っただろう。


彩やギンちゃんのことを聞けばどうにかなるのかもしれないけれど、結局のところあたしは、怖いのだ。


現実を知ることが、怖くて仕方がない。



「レナ。」


ベッドまで運ばれ、涙のあとを拭われた。


今日のは本気で痛くて仕方がなくて、あたしは未だ、動けないまま。



「つーかお前ここ、アザになってんじゃん。」


そう、腕を持ち上げられ、見ると、小さな青アザが出来ていた。


まぁ、フローリングでヤッたんだし、知らないうちにこんなのが出来てても気付かなかったろうけど。


でも、そんなことにまた、涙が溢れた。



「…レナ?」


キスマークのひとつでもつけられたら、至極分かりやすいのだと思う。


もしも一生消えない傷を残してくれたら、と思ったことさえあるのに。


なのに現実は、こんな醜い小さな青アザのみ。


縛ることも縛られることもなく、確かな確証なんかはひとつもないのだから。

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