月影
「泣くほど痛い?」


首を横に振った。


それでもジルの顔は悲しそうなままで、大丈夫だよ、とだけあたしは返す。



「これってシップとか貼るべき?」


「何でよ、意味ないって。
こんなのファンデーションで隠れるし、2,3日もすれば消えるよ、きっと。」


言うと、彼は少しばかり安堵の表情になった。


本当に、あたしの体に傷が残ることが嫌らしいけど、心配するならあんな風に抱かなければ良いのに、と思う。



「てか、久しぶりに夜這いに来たね。」


「そういう言い方すんなっつの。」


辛うじて笑うあたしに彼は、いつものように肩をすくめて見せた。


煙草を咥え、結局ジルはあたしの部屋の救急箱を探り、腕にシップを貼ってくれる。


こういう優しさに、またやるせなくなった。



「眠れてない顔、してるね。」


「お前もだよ、馬鹿。」


不安も恐怖も、山ほどあった。


だからこそ、考えるだけ眠れなくなり、どんなジルであろうと求めている自分に気付かされるのだ。


だってふたりっきりの時だけは、ただの男と女で居られるから。



「辛いことでもあった?」


問うと、一瞬目を丸くした彼は、それを伏せた。


言いたくないだけなのか、それとも言えないことなのか、と思うとまた、せき止められなくなった涙が溢れてしまいそうになる。


心も体もボロボロだ。

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