月影
起きるともう、そこにジルの姿はなかった。


前までは、時間がある時には一緒に食事まで済ませていたというのに、そんなことももう、遠い昔のことのよう。


残されたのは空虚感と左腕のシップの下の青アザのみで、膝を抱え、込み上げてくるものを堪えた。


今日は同伴の予定もなく、いつも通りの時間に支度をし、そしていつも通りの時間に家を出る。


が、いつもとは違うコンビニに立ち寄ろうとしたところで、あたしの足は止まってしまう。



「あらら?
めっちゃ偶然やんか!
つか、コンビニで遭遇しまくるとか、これってある意味運命ちゃうん?」


笑って近づいて来たのは、ギンちゃんだった。


正直今、一番会いたくない人物だっただけに、あたしは言葉を返すこともなく、「どうも。」とだけ言った。


だけども彼は心底つまんなそうな顔をし、睨むような瞳をあたしに向ける。



「お前らのこと、嶋さん知ってるんやってなぁ?
なのにお咎めナシとか、どういうことや?」


やはり彼は、ジルから何も聞いていないらしい。


「知りませんけど。」とだけ言ったあたしに金髪は、チッと舌打ちを混じらせた。


これがギンちゃんの本当の顔だということはわかっているし、大方あの日、あたしに会いに店に来たというのも、適当な言葉だったのだろう。



「レナちゃんもジルも、俺に何隠してんねん?」


「ギンちゃんこそ、何企んでんの?」


ジルもギンちゃんも、あたしに会いにきたわけじゃないとするなら、目的は彩だったのだろうか。


考えるだけ意味がわからず、思わずあたしも目前の彼を睨み返した。

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