月影
さすがに、耳を疑った。


目を見開くあたしに葵は、本当だよ、と言う。



「所得隠し。
脱税ってことだよ。」


「…嘘、でしょ…」


「でも、多分それだけじゃない。
危ない店に出入りしてるって聞いたことあるし、本当はそっちの捜査なのかもしれない。」


聞きたくなかった。


そんなわけないと信じたかった。



「…それってもしかして、グランディーって店じゃ…」


「店の名前は知らないけど。
でも、バカラだよ。」


つまりは違法賭博場だ。


ジルが出入りしている店がそんなものだったなんて、こんな形で知りたくなかった。



「どうすれば良いの、レナ!
あたしも一緒に捕まっちゃうの?!
ねぇ、助けてよ!」


「落ち着いて、葵!」


縋るような彼女を、何とか制止した。


葵はグランディーには行ったことがないと言うなら、捕まる可能性はないとは思う。


けど、金の流れを辿る上で、任意の事情聴取くらいはされかねないだろう。



「あたし、会長との関係、何度も注意したじゃん!」


「…だって、しょうがないじゃん…」


そう言って、葵はあたしの腕を掴んだまま、唇を噛み締めた。



「どうしてもナンバーワンになりたかったんだよ!
あたしにはもう、それしかなかったんだもん!」


客と寝なければならない気持ちが、わからないわけではない。


それでも、葵がナンバーワンにこだわる理由がわからなかった。

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