月影
「…聖夜クン、ホスト辞めたんだよ?」


気付けばそんなことを口にしていた。


けれども葵は知ってるよ、とまた、顔を俯かせてしまう。


何でこんな風になったのかと思いながら、途方に暮れた。



「…あたしもう、終わりだよ…」


葵の声が、虚しく宙を舞う。


確かに彼女は、小柴会長と出会ってから、今までのお客をないがしろにしていた面があった。


何もかもで小柴会長を優先させた結果、代わりにナンバーワンになれはしたものの、あの人が居なくなった今、葵には何も残っていないだろう。


きっとお客は離れてる、なんて言葉にするまでもない。



「このまま辞めんの?」


問うたのに、答えは聞かれなかった。


さすがにこんな状態の葵に店に出ろとは言えないし、出たところでどうなると言うだろう。


お茶引きとまではいかないまでも、仕事どころではないだろうし。



「とりあえず、店長に連絡するよ?
どのみちこのこと伝えなきゃならないんだし。」


小柴会長が切れたとなれば、アイズは本当に終わりなのかもしれない。


それでも携帯を取り出そうとしたあたしの手を止め、葵は言う。



「…まだ、みんなには言わないでっ…」


「そんな場合じゃないでしょ?!
てか、泣いたってどうにもならないじゃん!」


ヒドイことを言っているのかもしれない。


けどこれが、葵が脇目も振らずに目指した場所の果てだ。


そんなことが、堪らなく悲しかった。

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