月影
店長に電話すると、驚いた彼はそっちに行く、と言った。


程なくして店長が来て、事情を説明すると、「俺が話すよ。」と言ったのだ。


あたしはどうすることも出来ず、わかったとだけ言い、代わりに店に出ることになった。


パクられるかもしれない、と言ったギンちゃんの言葉が頭の中を回ってばかりで、今日も連絡のないジルを想う。






「レナさん!
今日って葵さんの代わりなんですよね?」


キャピった彩の声が耳触りで、そうだよ、とだけあたしは返した。


この子は一体どこまで知っていて、ジルやギンちゃんとどんな関係なのだろうと思うと、ゾッとする。



「風邪なんだって。」


「嘘くさいよねぇ。
小柴会長も最近ご無沙汰だし、今月危ないもんね、あの子。」


彩より先に、後ろで聞いていたのだろう古株のひとりがそう言うと、みんな口々に不満を漏らし始めた。


無断欠勤だということは、あたしと店長とマネージャーしか知らないはずなのに、もしかしたらどこからか漏れているのかもしれない。


ならば、小柴会長の逮捕が知られるのも、時間の問題だろう。



「悪口とか止めましょうよ。
あたし達は自分の仕事するだけじゃないんですか?」


生意気だね、とぼそりと聞こえる。


もう、今のアイズは、綻んだ程度の話では済まなくなっているのだろう。



「気にしない方が良いですよ、レナさん。」


まさか、彩に慰めの言葉をもらうことになろうとは。


惨めで悔しくて、拳を握り締め、唇を噛み締めた。

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