月影
営業時間も終わり、店に戻ってきた店長の顔は疲弊していた。


少しだけマネージャーと話し、帰っていく彼を見送りながら、頭を抱えた様子で椅子へと腰を降ろす。


ただ黙って、あたしはそんな店長の所作を見つめていた。



「葵、何て言ってた?」


座れよ、と促されたが、あたしはそれには応えなかった。


代わりに言葉を投げると、彼はため息を混じらせた様子で首を横に振る。



「ありゃダメだ。」


「…見捨てんの?」


「そういうこと言ってんじゃねぇ。
アイツ自身がもうダメ、ってことだよ。」


多分、散々話した結果の言葉だろう。


店長やあたしがどうにか出来る事ではなく、葵自身の問題として、か。



「どうして小柴会長に葵をつけたの?
蘭サンとか他の誰かなら、こんなことにならなかったかもしれないのに。」


「葵が行きたいって言ったんだ。」


「店長がけしかけたんじゃない?」


言うと、彼は驚くように目を見開いたが、またため息を混じらせる。



「無謀だって言ったんだよ、俺は。」


「じゃあ、何でその時止めてくれなかったの?!
そしたら葵はあんな人と寝なくても良かっただろうし、こんなことにはならなかったかもしれないんだよ?!」


「しょうがねぇだろ!」


バンッ、と机を叩く音が響いた。


思わず身をすくめ、ごめん、と言うことしか出来なくなる。



「…俺だって、誰だってこんな風になるなんて思わねぇだろ。」


泣きそうになった。


いつもいつも物事は、過ぎ去った後に結果を悔むことになる。

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