月影
もう、どれだけヤッたのか、どれだけイッたのかなんてわかんなくて、朦朧とする意識の中で、ジルに抱き締められているのだと気が付いた。


視界は僅かに歪んでいて、まだ上手く呼吸は出来ないまま、とりあえず生きているのだと頭で理解したのだけれど。


喉がカラカラに乾き、それでも指の先さえも動かせないのだから。


あまり焦点が合わないけれど、彼の瞳がそんなあたしへと落ちてきて、目を閉じるとキスをされたことに驚いた。



「寝てろよ。」


もしかしたら、詫びのつもりなのかもしれない。


ジルが言葉に出来ないものをあたしの中に散々吐き出したんだってことはわかったし、別にそれを望んだのはあたし自身だから、怒ってなんてないんだけど。


いつの間にか彼の体は熱っぽくなっていて、そんなことにひどく安堵している自分が居た。



「…首締めない約束だったのに。」


少しかすれたような声でそう口を尖らせると、それ以上は何も言わせないような唇に言葉を奪われた。


飼い猫で居て欲しいなら、こんなにも愛しそうにあたしに触れないで欲しい。


優しすぎるキスはまるで恋人同士のようで、思わず勘違いしてしまいそうになるじゃない。



「くすぐったいよ。」


そう、少し笑ってみれば、彼は小さくため息を吐き出し、ベッドの下に転がっていた煙草の一本を拾い上げた。


いつの間にか部屋の中は真っ暗になっていて、ライターの火が辛うじてジルの輪郭を淡く照らし出している。


あたしの頬を滑る指先にクスクスと笑えば、彼は諦めたように口元を緩めていた。



「今日さ、泊まってく?」


「良いね、それ。」


そんな言葉にヘラヘラと笑ってしまい、部屋を漂う白灰色に、ジルがここに溶け込むようにも感じさせられたのだ。


来客用に一応用意していた灰皿を棚から取り出して彼へと差し出せば、良い子、とでも言ってるような手の平があたしの頭をクシャクシャッと撫でてくれた。

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