月影
「何かさ、適当にご飯作るよ。」


「…お前、作れるんだ?」


「失礼なこと言わないでくださーい。
あたし家事超得意だし、毎日お弁当買うほどお金持ちじゃないんでーす。」


「へぇ、何か意外。
でも俺、酒とつまみがありゃ良いタイプなんだけど。」


「ダーメ。
そんなんだから顔色悪いんだよ。」


「酒出せ。」


「嫌です。
てか、それ以上飲ませないよ。」


剥ぎ取られていた服を適当に着て、電気をつけた時、ジルは困ったように肩をすくめていた。


コイツは多分、点滴とかサプリとかで暮らせるならそれで良いと思ってるんだろうが、だから思考までもがぶっ飛ぶんだよ、と強く思う。


大体、これだけ酔っ払っててまだ飲みたいだなんて、どうかしてる。



「何があったか知らないし、言いたくないなら聞かないけどさ。
あたし抱いて気が済むんならそれで良いし、頼むからお酒に逃げるような真似しないで。」


「…お節介。」


「何とでも言え。」


「俺、こんなの日常だぜ?
その度にお前、俺のこと受け止めんの?」


言葉はやっぱり、投げやりだった。


それでも死に急ぐような生き方してて、どうしても、そんなジルに苛立ってしまう。


自由を好む彼を縛るつもりなんて毛頭ないけど、少しだけ、辛い時はあたしのとこに帰ってくれば良いのに、と思った。



「あたしだけに甘えてなよ。」


初めて会ったあの日のジルの言葉と同じように言ってみれば、一瞬瞳を大きくした彼は、次の瞬間には伏し目がちに笑みを零していた。


何だ、可愛い顔して笑えるんじゃん、と思わずあたしも口元を緩めてしまうのだけれど。


最後の煙を吐き出しジルは、煙草を消して服を着る。

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