月影
あの日、当てもなく歩いていたあたしのように、車は目的地もなく走っているように見えた。


あたし達には、辿り着く先はないのかもしれない。


こんな風に無意識のうちに毎日が過ぎるのなら、選んで状況を変えることが出来るのもまた、自分自身だけだ。


そろそろちゃんと、選ばなければならないらしい。



「帰ろうよ、もう。」


見失うな、と店長は言った。


幸せになりたいだなんて、そんな高望みをするつもりはない。


でも、苦しいのはこれ以上耐えられないんだ。


痛みの蓄積に、蝕まれている気がした。



「俺とは居たくない、って?」


「違うよ。
ただちょっと、疲れてるだけ。」


いつから、どこから歯車が狂ったのだろう。


ジルと居てももう、何も考えず、安堵感に支配されるだけなんてことはないんだから。



「俺と居て疲れるって意味だろ?」

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