月影
つまりは一緒に居ても癒されないということだ。


わざわざジルは、言葉にした。


何も答えずにいると、彼は新しい煙草を咥え、ため息を混じらせる。


目に見えて、ジルとの関係も壊れ始めたということだろう。


一緒に過ごす時間さえ、意味を持たなくなっている。


思えば彼は今日、一度もあたしの名前を呼んでいないということに、今更ながらに気付かされた。



「俺も疲れた。」


ぼそりと呟かれた、そんな台詞。


カップルにしてみれば、それは別れの言葉にも等しいのかもしれない。


けど、あたし達は、そんな美しい関係ではなかった。


だからお互いに、それすらも意味を持たない気がした。


悲しいことだ。

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