月影
「アイズもすっかり変わった感じだなぁ。」


そう、岡ちゃんはため息を混じらせた。


あたしは曖昧にしか笑えず、彼のグラスにお酒を注ぐ。



「岡ちゃんは何か変わったの?」


「レナは何か変わったのか?」


質問をそのままオウム返しするのは、岡ちゃんの悪い癖だろう。


彼の前だからかそのまま笑顔をキープすることも出来ず、あたしは思わず視線を下げた。



「恋愛はしてるのか?」


何も言えないあたしに、岡ちゃんはまた問うてきた。


小さく唇を噛み締めながら、首を横に振って見せる。



「必要ないよ、そんなの。」


父親のような岡ちゃんに嘘をつくことに、やっぱりチクリと胸が痛んだ。


だけども彼はそれ以上言及することはなく、そうか、と呟きグラスのアルコールを流し込むのみ。


夏になったとしても、あたしの心は寒いまま。

< 296 / 403 >

この作品をシェア

pagetop