月影
「弟のことは?」


ただ、首を横に振ることでしか意志を示せない。


シュウが居なくなったことは頭では理解したけれど、それでもやっぱり気持ちがついていかないのだ。


きっと今のあたしの心には、ジルと同じように、決して埋めることが出来ない穴が開いてしまっているのだろう。



「まぁ、立ち直るのには時間も必要だ。」


ポツリと落とされた岡ちゃんからの言葉が、また胸の痛みを増させた。


一体どれくらいの時間が経過すれば、シュウの死を受け止めることが出来るのだろう。


何よりその術さえも、あたしは知らないままだ。


不意に頭の上に手の平が添えられ、ポンポンと子供のように撫でられた。


瞬間的に浮かんだのはジルの顔で、あたしは涙腺が緩まぬようにと必死に涙を堪えることしか出来なかった。



「お前がそんなだと、親も心配するだろ?」


「…しないよ、されないんだ。」


漏らすように言ったあたしに、また彼は、そうか、とだけ言葉を残した。


岡ちゃんはいつも、どうでも良いことは詮索したがるくせに、本当に聞かれたくないことは聞いて来ないのだ。


まるでテレビドラマに出てくるような理想のお父さんみたいで、またやるせなくなる。


あれから、両親からの連絡は一度としてなく、ついに見限られたかな、と思っているのだけれど。


嬉しい反面、捨て子のようだとも思う。



「あのな、レナ。
家族ってのは何も、血の繋がりだけじゃねぇだろ?」


「…どういうこと?」


「夫婦だって元は他人だし、一生血が繋がることはねぇけどよ。
それでもちゃんとしたモンで結ばれてるだろ?」


だからそういうのを大事にしろよ、と岡ちゃんの言葉。


小さく頷くと、彼はまた、赤子の頭を撫でるように、あたしの上で手の平を滑らせた。

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