月影
昼に起きて、準備してジルのマンションまで足を運んだ。


いつ来いとも言われてないし、行っても居る保証はない。


それでもあたしはここへ来た。


貰って以来一度も使ったことのなかった相鍵を手に、マンションのエントランスに足を踏み入れた時。



「…レナ、さん…」


彩の声と、驚いた顔。


もっと正確に言えば、そこには一緒にジルが居た。


前に見た時と同じように、彼女が彼の腕に絡まり、これから部屋にでも向かおうとしていたのだろう。


嘘だと思いたかった。


誕生日は、あたしと過ごすと言ってくれたのに。


けど、それはまだ良いのだ。


あの部屋に、あたし以外の女が足を踏み入れるということは、絶対的な崩壊。


あたし達だけの世界だと思っていたのに。

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