月影
早速キッチンに立ちあたしは、シャツの袖を捲り上げて冷蔵庫の中を物色した。


野菜ばっか取り出したあたしは何か後ろから睨まれてる気もするが、そんなの無視だとばかりに背を向ける。



「何作るつもりー?」


「ポトフだよ。
作るの楽だし、食べやすいでしょ?」


「…野菜まみれじゃねぇかよ。」


「汚い言い方しないで。」


怒ったのか、それとも単に邪魔をしたいだけなのか、気紛れなジルはあたしを後ろから抱き締めてくれる。


嬉しいけど、でも、邪魔ってゆーか、言ったら怒るんだろうけど。


珍しく甘えてるような彼に困ったなぁ、と思いながらもあたしは、ため息だけを混じらせた。


ジルの、普段は無表情の下に隠してるものを垣間見てる気がして、どうにもあたしはいたたまれなくなったのだ。



「お前さぁ、店と今って別人だよな。」


「当然じゃん。
適当に馬鹿っぽく演じてりゃ生活費稼げるんだし。」


「…生活費?」


「そうだよ。
別に上に行きたいとか思わないし、あたしは普通に家賃払えれば良いの。」


「じゃあ、別にキャバじゃなくても良いだろ?」


「シュウ、探すためだよ。」


「へぇ、そう。」


やっとあたしから体を離したジルはまた、煙草を咥えるようにしてソファーへと身を沈めた。


背中の重みはなくなったものの、少しばかり寂しい気分にさせられてしまう。

< 30 / 403 >

この作品をシェア

pagetop