月影
「…誕生日…」


気付けば口から漏れていた。


だけどもジルではなく彩が、「誕生日?」と反復させ、首を傾げた。


その瞬間、ハッとした。



「…あたし、もしかしなくても邪魔だよね?」


「レナさん、待ってください!」


これ以上、あたしにここに居ろということだろうか。


笑顔で言ったはずなのに、彩に引き留められ、立ち去ることが出来なくなった。



「どうしたの?」


「…あのっ、これはっ…」


「心配しないでよ、彩。
これって店の外だし、別に指名替えってわけでもないから、ペナルティーでもないでしょ?」


何でこんなことを言っているのだろうか。


でも、彩のほっと安堵したような表情を見ると、そういうことか、と力さえ抜けていく。


ジルがギンちゃんと一緒になって店に現れたあの日、表立って彩を指名出来ない彼の代わりに、フリーのギンちゃんに指名させたのだろう。


あたしの前で、何食わぬ顔で。



「それに別に、その人あたしの彼氏とかでもないし。」


だってあたし達は、付き合ってなどいないのだから。


だからどこで誰と何をしてようが、関係すらない。


だけどもわざわざ言葉にした分だけ、虚しさは増した。



「彩、今日出勤でしょ?
遅刻しない程度にしなきゃ、あの店長怖いよ?」


レナさん、と彼女はあたしに、いつもの甘ったるい笑顔を向けてきた。



「あたし、本気です。」

< 300 / 403 >

この作品をシェア

pagetop