月影
だから邪魔はするな、とでも言いたいのだろう。


何てことはない、あたしは恋敵だとでも思われて、勝手に嫌われていたということだ。



「良かったね。」


と、言ってから、頑張って、と付け加えた。


ジルの顔は、見ることが出来なかった。


ふたりはこの後、あの部屋で別の世界を作るのかもしれない。


それでも、あたしの男でもなければあたしの部屋でもないのだから、頑張れ以外の言葉が見つけられなかったのだ。


ジルはあたしを引き留めなかった。


まぁ、彩が居る手前、それも当然なのかもしれないけれど。


つまりはあたしではなく彼女を選んだということで、長居するのも無用だった。



「レナさんもあのホストさんとのこと、頑張ってくださいね。」


ダメ押しの、彩の一言。


“あのホスト”とは拓真のことだろうけど、彼女にアイツを会わせたことはないし、そんな話すら一度としてしたことはないのに。


相変わらず殊勝な子だな、と思いながら、笑顔の彼女にありがたくもないのに「ありがとう。」と言って背を向けた。


寒さなんかどこにもなくて、だからジルはあたしを必要とはしていないのだろう。


残暑と呼ぶには厳しい陽射しに、今更ながらにひどい眩暈を覚えてしまう。

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