月影
一瞬、卒倒するかと思った。


順調そうなのだから良いじゃない、とは思ったけど、それすらも彼女にとっては、あたしに対する予防線のつもりなのだろう。


したたかな女だ。



「不安なことでもあるの?」


少し迷ったが疑問を口にすると、ん~、と考えた顔はすぐにぱあっと明るくなり、「聞いて欲しいんです。」と彼女は言う。



「恋愛相談ってあんまり人には出来ないじゃないですか?
それにほら、レナさんは経験豊富そうだし、知り合いだから相手のこともすごくよくわかってそうだし。」


どういう意味だ。


と、言い掛けたが、すんでで止めた。



「あたしはあの人のことなんか何も知らないから、協力ってほどのことは出来ないと思うけど?」


だって実際、あの男の考えていることなんてひとつもわからないんだから。


大体ジルにしたって、何もアイズの子に手を出さなくても良いじゃない。


隠し通せるわけでもないんだし、こんなことになるとわかっていたとするなら、ひどい男だ。



「あっ、時間そろそろだ!」


そう言った彼女は、あたしの答えを聞くより先に、手早く荷物をまとめた。



「ごめんなさい、レナさん!
じゃあまた色々聞いてくださいね!」


そんな言葉を残し、彩は甘い香りを引き連れ、店を後にした。


これ以上同じ空気を吸っていたくなかったので引き留めなかったが、それじゃあこれは、約束したことになるのだろうか。


あたしにふたりの恋を応援しろってことだ。


やっぱり滑稽すぎて、笑うことしか出来なかった。

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