月影
今日はジルの誕生日。


今頃はカレーを作り終え、あの寒々しい部屋で過ごしていただろう時間でもある。


季節外れのマフラーをプレゼントすると、きっと彼は呆れながらも笑い、受け取ってくれるだろうと思っていた。


いつも通りにビールで乾杯して、映画のDVDだって観ていただろう。


渡すことの出来なかったマフラーと、返すことを忘れた相鍵は、クローゼットの中にある彼の物とまとめ、目に入らない場所に隠しておいた。


彩に託していたら、彼女はどんな顔をしただろう、と想像すると、また少しだけ笑えた。




一時退院を許されたあの日、家出をしたシュウのように。


あたしの中でジルは、裏切り者のような気がした。



だから嫌い。







「レナ?」


驚いた。


と言うか、驚き過ぎて軽く思考が停止してしまった。


今日があたしの休みの日ということは、必然的に彼も、休みの日ということ。


同じ街で生きているのだから、生活圏内も行動範囲も、そりゃ同じで当然だったろう。



「…拓、真…」

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