月影
色を掛けているお客のひとりに、ムッちゃんという人が居る。
言い方は悪いが彼は、女性経験が乏しく、ある意味純朴なのだろう、いつもあたしに「愛してる。」と言ってくれている。
ジルに悲しい目をしていると言われたあたしに向かって、「レナは優しい目をしてるね。」と言ってくれるのだ。
だからこそ、自分自身がわからなくなる瞬間があった。
違う名前で、別のあたしを見て、彼は愛の言葉を与え続けてくれるのだ。
それはジルとあたしくらい、偽物ということ。
何にもならない関係だらけで、本当に疲弊していた。
そんな中だからこそ、拓真の何でもない優しさが心地よくも感じていたのだ。
「レナって好きな男居んの?」
「…わかんない。」
「正直者めー。」
つまりはそれは、拓真に対しても“わかんない”ということ。
笑いながら言う彼に、あたしは曖昧な顔しか出来なかった。
今頃彩は、出勤している頃だろう。
だとするなら、ジルがギンちゃんを連れ立って店に現れている可能性だってある。
まぁ、今となってはどうでも良いことだけれど。
「俺と付き合っちゃえば楽しいのに。」
「…下心ないんでしょ?」
「単純な意見だよ。
俺に流れればそんな辛い顔しなくても良いのに、って。」
拓真はあたしのことをちゃんとよく知っていた。
何が好きで何か嫌いか、何に喜び何に悲しむのかも、ちゃんと知っている。
でも、あれほど一緒に過ごしたジルはどうかと問われると、それすら疑問に感じた。
彼はあたしを必要とはしていないということ。
言い方は悪いが彼は、女性経験が乏しく、ある意味純朴なのだろう、いつもあたしに「愛してる。」と言ってくれている。
ジルに悲しい目をしていると言われたあたしに向かって、「レナは優しい目をしてるね。」と言ってくれるのだ。
だからこそ、自分自身がわからなくなる瞬間があった。
違う名前で、別のあたしを見て、彼は愛の言葉を与え続けてくれるのだ。
それはジルとあたしくらい、偽物ということ。
何にもならない関係だらけで、本当に疲弊していた。
そんな中だからこそ、拓真の何でもない優しさが心地よくも感じていたのだ。
「レナって好きな男居んの?」
「…わかんない。」
「正直者めー。」
つまりはそれは、拓真に対しても“わかんない”ということ。
笑いながら言う彼に、あたしは曖昧な顔しか出来なかった。
今頃彩は、出勤している頃だろう。
だとするなら、ジルがギンちゃんを連れ立って店に現れている可能性だってある。
まぁ、今となってはどうでも良いことだけれど。
「俺と付き合っちゃえば楽しいのに。」
「…下心ないんでしょ?」
「単純な意見だよ。
俺に流れればそんな辛い顔しなくても良いのに、って。」
拓真はあたしのことをちゃんとよく知っていた。
何が好きで何か嫌いか、何に喜び何に悲しむのかも、ちゃんと知っている。
でも、あれほど一緒に過ごしたジルはどうかと問われると、それすら疑問に感じた。
彼はあたしを必要とはしていないということ。