月影
「拓真はあたしの何が良いの?」


「…何それ。」


「単純な意見だよ。」


ポカンとする彼に先ほど言われたそのままを返すと、何故だかははっ、と笑われた。



「つまんなそうだった女が不意に笑うと、俺もグラッときちゃうっしょ?」


あたしはジルのことを、つまんなそうな男だと思った。


でも拓真は、そんなあたしをつまんなそうな女と言う。


結局のところあたし達は、似ているのだということをまた、思い出させられる。


そしてその時やっと、自分自身の左手首にあるブレスの存在に気が付いた。


馴染み過ぎて、ジルと同じくらいに体の一部となっていた、あの日貰った物。


どうして良いのかわからなくなる。



「俺は少なくとも、レナを傷つけるようなことはないよ。」


だってこれはただの片想いだから。


そう言った拓真は、半分ほど飲んだグラスをコツンと乾杯して見せた。


それから滴り落ちる水滴は、テーブルの上で混ざり合う。


涙の流し方を忘れてしまったあたしは、それを聞いた時、ひどく安堵した顔をしていたことだろう、拓真は優しく笑ってくれた。



「来週で俺、クロス終わりだから。」

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