月影
全てを聞いてしまった時、あたしはどんな顔をして拓真と別れたのかを、上手く思い出せなかった。


ただ、知らないように、知らないようにと思っていたはずの事実を、こうも簡単に聞かされてしまったのだから。


急に恐ろしくなり、そしてあたしの中には空洞が広がった。




あんなことしてたらパクられる、とギンちゃんは言っていた。


関わらない方が良くて、本気になるな、騙されているんじゃないのか、とも。



泣くだけじゃ済まなくなるかも、とかも言ってたっけ。




つまりはそれは、あたしも風俗に落とされるかも、ということだろう。


ジルの考えていることがわからなかった。




じゃあ、彩は?




頭に浮かび上がった疑問符に、ゾッとしたのだ。


ジルはもしかしたら、最初から彩を風俗に落とすつもりで近付いたのかもしれない。


ギンちゃんや自らの自由のために、金を手に入れるために。


あの子は決して馬鹿ではないけど、のめり込むところがあるのには気付いていた。


仕事のことにしても、男のことにしてもそうだ。


だとするなら、ジルはそれをわかった上で、番号を渡された彩に電話でもしたのだろう。


仮説にしても、身震いを覚える。

< 314 / 403 >

この作品をシェア

pagetop