月影
「あれじゃまるでお花畑ね。」


美妃サンはそう言って、呆れた顔をしていた。


少し向こうで彩は、嬉しそうにメイクを直している。


拓真から聞いたことは誰にも言わなかったし、第一誰に何と言えば良いのかもわからない。


だからそれは、もちろん彩にさえも言えなかった。



『ジルのこと、気をつけた方が良いんじゃない?』


そう恋敵と思っているあたしから言われた彩が、素直に聞き入れてくれるとも思えないし、それ以前にジルがしていることだってあたしの推測でしかないのだ。


蚊帳の外、というやつだろう。


恋の応援なんて出来なかった。


でも、彩が利用されるだけだとするなら、同じ女としては止めてあげった。


けれど、利用する側のジルの金を稼ぐ理由も知ってるから、結局はどうすることも出来ないまま。



「まぁ、あたしは辞めるから関係ないけどさ。」


弾かれたように顔を向けてみると、美妃サンは綺麗な顔で笑っていた。


またひとり居なくなることに悲しみはあったが、もう何でも良いという思いの方が勝っていた。


美妃サンならどこに行ったって上手くやっていけるだろうし、どうなるともわからないアイズに居続ける人間ではないこともわかっていたから。



「レナちゃんも一緒に辞める?」


冗談のような言葉に、あたしは笑った。


心に開いた空洞に、冷たい風が吹きすさぶ。


それはとても、痛みにも似たもの。

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