月影
「これって今、あたし彩の彼氏に押し倒されてることになんの?」


声が震えた。


でも、言うと彼は、視線を外す。


レナ、と再び名前を呼ばれたが、その声もまた、少しばかり震えている気がした。


ジルがゆっくりと体から離れると、逃げるようにフラつきながらもあたしは、よろめきながらに立ち上がった。



「出てってよ!」


勢い良くクローゼットの扉を開け、紙袋に仕舞っていたものを端から投げつける。


上着、シャツ、ヘアワックス、とにかく全部、ジルに向かって投げた。


だけども彼は受け止めるわけでも避けるわけでもなく、物悲しそうにこちらを見つめるだけ。


最後に投げたマフラーだけは、ゆっくりと宙を舞った。


誕生日のあの日、ジルにあげるはずだったものだ。


何も掴むのがなくなり、あたしは唇を噛み締めながらに肩で息をする。



「気は済んだ?」


床一面に、ジルのもの。


また涙が溢れ、睨むことも出来ずに顔を覆う。



「…アンタの仕事、知っちゃったよ…」

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