月影
どうやら先ほどの“風俗に行け”は、本気で言っていたらしい。


逃げおおせると思うな、ということだ。



「言ったでしょう?
あなたを信用できない以上、答えも何もありません。」


ほう、と彼は、顔を歪める。



「つまりはネーチャン、迷ってんだろう?」


「…何、言って…」


言い掛け、すぐにはっとした。


思わず顔に出てしまい、だけどもそれさえ嶋さんは、見逃してはくれない。



「何でホストと一緒に暮らしてる、って言わねぇんだ?
言えばもうジルとは無関係だから、って言い逃れられたろう?」


言葉が出なかった。


それでも彼は、あたしに詰め寄る。



「男が居ても、ジルを見捨てられない。
けど、どうして良いかもわかんねぇし、俺のことも信用できない、ってな。」


顔に書いてるよ。


そんな一言の前に、なす術がなくなった。


全部知っていて、そして見抜いていたくせに、あたしを試していたのだ。


いや、それすらこの人にとっては、“ゲームの一部”だったのかもしれないけれど。



「手詰まりだから早く帰ってくれ、って言いたそうな顔してるなぁ?」


思わず唇を噛み締めた。


その通りなのだから、反論のしようもない。



「やっぱりつまんねぇ女だなぁ。」

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