月影
夏は終わったというのに、珍しく蒸し蒸しとした一日だった。
墓標のくぼみを指でなぞると、途端に忘れかけていたあの子の笑顔を思い出す。
シュウは死んだのだと、もう何度言い聞かせただろう。
その度にやりきれなくなる気持ちは、あと何度堪えれば良いのだろう。
照りつける太陽と、湿り気を帯びた風。
線香の煙は頼りなく揺れながら、空に消える。
人の声さえなく、風の音だけが支配する場所に、ジャリッと小石の擦れる音が響いたのは、それからどれくらい経ってからだったろう。
無意識のうちに振り返ると、そこに立つ人物の姿に驚きを隠せなかった。
ゆっくりと立ち上がると、彼はそんなあたしから視線を外した。
「…何、やってるの…?」
喉はからからに渇いていた。
声を絞ることが精一杯で、心臓の鼓動が速くなる。
記憶の中に刻まれた、忘れられないあの香りがして、気付けば立ち去ることも忘れていたのだ。
「今日って月命日だろ?
何かお前の弟に呼び寄せられた気がしてここに来たらさ。」
お前が居るとはな、と肩をすくめた顔。
拓真にさえ、シュウのことなんか話したことはないのに。
なのに、まさかこの人が、そんなことを覚えていたなんて。
「…ジル…」
久しぶりに、その名を呼んだ。
どうして良いのかもわからず立ち尽くしていると、彼はため息混じりに一度宙を仰ぎ、そしてこちらへと足を進めてくる。
思わず身を固くしたあたしを一瞥し、「こんなとこで襲わねぇよ。」と彼は言う。
そして淡々と、身ひとつで来た彼は腰をかがめ、墓石に向かって手を合わせた。
墓標のくぼみを指でなぞると、途端に忘れかけていたあの子の笑顔を思い出す。
シュウは死んだのだと、もう何度言い聞かせただろう。
その度にやりきれなくなる気持ちは、あと何度堪えれば良いのだろう。
照りつける太陽と、湿り気を帯びた風。
線香の煙は頼りなく揺れながら、空に消える。
人の声さえなく、風の音だけが支配する場所に、ジャリッと小石の擦れる音が響いたのは、それからどれくらい経ってからだったろう。
無意識のうちに振り返ると、そこに立つ人物の姿に驚きを隠せなかった。
ゆっくりと立ち上がると、彼はそんなあたしから視線を外した。
「…何、やってるの…?」
喉はからからに渇いていた。
声を絞ることが精一杯で、心臓の鼓動が速くなる。
記憶の中に刻まれた、忘れられないあの香りがして、気付けば立ち去ることも忘れていたのだ。
「今日って月命日だろ?
何かお前の弟に呼び寄せられた気がしてここに来たらさ。」
お前が居るとはな、と肩をすくめた顔。
拓真にさえ、シュウのことなんか話したことはないのに。
なのに、まさかこの人が、そんなことを覚えていたなんて。
「…ジル…」
久しぶりに、その名を呼んだ。
どうして良いのかもわからず立ち尽くしていると、彼はため息混じりに一度宙を仰ぎ、そしてこちらへと足を進めてくる。
思わず身を固くしたあたしを一瞥し、「こんなとこで襲わねぇよ。」と彼は言う。
そして淡々と、身ひとつで来た彼は腰をかがめ、墓石に向かって手を合わせた。