月影
動くことが出来なかったのは、彼が紳士的な横顔を見せたからだろう。


葬儀の間中、毅然としてあたしを支えてくれていた時のことを思い出したから。


だから今更、関係を断ち切ったことに対する罪悪感が生まれたのかもしれない。


ただずっとその背中を眺めていると、俺さ、と彼は、振り返ることもなく言葉を紡ぎ始めた。



「お前居なくなってから、何かよくわかんねぇんだ。
人騙して、その金で自由になれたとして、その後どうすんだろう、って。」


胸が締め付けられるのが分かる。


顔を俯かせることしか出来なくて、だけども立ち上がったジルがこちらに顔を向けることはない。



「俺、シュウが死ぬ前に会ったんだよ。
お前、知らなかったろ?」


「…嘘、でしょ?」


「ホントだよ。
姉ちゃんには内緒で会いたい、って言われて呼び出されたんだ。」


やっと振り返った顔は、懐かしさを慈しむような顔だった。


ジルはあの日、あたしと小料理屋を訪れ、シュウとの再会を果たした時、メニュー表の中に、そっと自分の名刺を挟げておいたのだと言う。


まさか連絡来るなんて、と彼は笑うが、あたしは驚きを隠せないまま。



「夜遊び教えてくれ、って言ってな?
キャバクラ連れてってやったよ。」


まぁ、さすがに酒は飲ませてねぇけど。


ジルはそう言いながら、あたしへと視線を滑らせた。



「多分、お前がどういうことしてんのか知りたかったんだよ、アイツ。」

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